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Medical column とまこまい医報

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抗血栓療法の中止の危険性

抗血栓療法の中止の危険性

大宮 信行

(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)

 近年日本では脳梗塞や心筋梗塞が増加しており、抗血栓療法として約100万人が抗凝固薬(ワーファリン)を、300万人以上が抗血小板薬(アスピリンなど)を服用しています。脳外科領域において脳梗塞の治療および予防のためには欠かせない薬ですが、体のどこかで出血が生じると血が止まりにくくなるという重大な副作用があります。一方抗血栓療法中の患者さんが、ポリープの切除などの内視鏡治療や、抜歯、外科手術などが必要になった場合、止血困難の可能性から、休薬の必要性がしばしば問題となります。
 2003年Blackerらは内視鏡施行16万5千例について30日以内の脳梗塞発症率を報告しています。全体では0.02%(37人)の発症がありました。ワーファリン継続438例では発症が無く、休薬や減量した987例で1.22%(12人)が発症しました。さらにその約6割は死亡~要介護状態と予後不良でした。また2005年Maulazらは、アスピリンを服用していて、休薬すると約3.4倍脳梗塞の発症が高まったと報告しています。一方日本消化器内視鏡学会による内視鏡ガイドラインでは、ワーファリンを3~4日中止、危険度が高い症例でヘパリンへの置換を行うとし、抗血小板剤については、アスピリンで3日、チクロピジンで5日、両者併用で7日間の休薬を推奨しています。
 抜歯に関しては日本循環器学会のガイドラインで、抗血栓療法を継続するよう推奨しています。抗血栓療法下でも、ほとんどがゼラチンスポンジと縫合、圧迫止血を組み合わせて止血が可能とされています。また欧米では抗血栓療法下での抜歯が可能かというより、すでに抜歯に関しては基本的に休薬してはならないという考えが主流になっています。
 外科手術としては、眼科領域ですでに抗血栓療法下での手術が多くなっています。特に白内障手術では原則として休薬はしません。2003年Katzらは約2万例の白内障手術を対象に検討したところ、4%が抗凝固薬を24.2%が抗血小板薬を内服していました。手術時にそれぞれ28.3%と22.5%で休薬しましたが、内服継続中でも出血の頻度は低く、休薬群と継続群で差がないと報告しています。
 いずれにしても抗血栓療法を中止した場合の脳梗塞の発症頻度は必ずしも高くはありませんが、一度発症すれば重篤になりうるということを念頭に置き、そのリスクを十分考慮して対処することが重要であると考えられます。

2009年08月25日 苫小牧民報 掲載

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