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Medical column とまこまい医報

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脳卒中とその危険因子について

脳卒中とその危険因子について

由良 茂貴

(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)

 脳卒中(脳血管障害)は血が足りなくなるにせよ(虚血性疾患:脳梗塞)、逆に血が出るにせよ(出血性疾患:脳出血、クモ膜下出血)、脳の血管が原因で障害が起こる疾患の総称です。脳卒中はかつては本邦の死因の一位でしたが、診断・治療の進歩で致死率は減少し、悪性新生物(癌)、心臓病、に次ぐ死因の三位に後退し、大変結構な事です。しかし、多臓器疾患である癌や種々の疾患の末期の状態の心不全を含む心臓病とは異なり、脳卒中は「単独臓器の致死的疾患としては死因の第一位」と言う解釈もあり、加えて、癌や心疾患と異なる点は、運良く生存した場合に片麻痺等の神経障害により生活能力の低下を起こし、時に介護等が必要になる事です。事実寝たきりになる原因として最多の約3分の1近くを占めるのが脳卒中であり、これを発症した場合には本人のみならず、周囲の人々へ与える身体的、精神的ならびに経済的なダメージは計り知れません。 実際、脳卒中患者に費やす医療費は急性期、慢性期も含め、全医療費の半分を占めると言われております。つまり、急性期治療はもちろん重要ですが脳卒中にかからないための予防医学が重要になってきます。以下、昨年改定された「脳卒中治療ガイドライン2009」に沿い、脳卒中の一般的な発症予防に関して概説します。 脳卒中の一般的危険因子としては高血圧症、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、大量の飲酒、睡眠時無呼吸症候群、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病等が挙げられています。高血圧は脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子です。高血圧治療ガイドラインには年齢、合併症の存在などにより降圧目標値が明記されておりますので、詳細はお近くの先生にご相談して下さい。糖尿病は脳梗塞の確立した危険因子で、血糖のコントロールにより微小血管症をある程度減少させる事が可能です。脂質異常症(高脂血症)に関しては最近テレビのCM等の影響でLDLコレステロールを下げる意識が浸透しつつありますが、一方日本脂質栄養学会が「LDL高値の方が長生きする」と相反する主張を行っており、早く結論を統一して欲しいものです。心房細動は長島名誉監督の例でお分かりの様に心臓からの遊離血栓が脳血管を閉塞する事があるので、ワルファリンと言う抗凝固薬による治療が必要です。喫煙は「百害あって一利なし」ですので、御本人が禁煙すべきはもちろんですが、喫煙者のみならず他人の煙を吸い込む受動喫煙も危険因子であるとする報告があり、これも避けるべきであると記載されました。飲酒量に関しては週にエタノールで450g以上が危ない、と言われており、ビールに換算しますと、350cc缶ビールで25本、一日3缶以上の飲酒、という事になり私も含め耳の痛い方も多いと思います。睡眠時無呼吸症候群はその重要な指標となるいびきが虚血性脳卒中の独立した因子であることが報告されております。メタボリック症候群に関しては、特有の腹部内臓肥満が心血管イベントの発症リスクを高めると言われており、慢性腎臓病患者は心血管疾患死亡率が高いことが明らかにされており、生活習慣の改善(禁煙、減塩、肥満の改善、節酒)と血圧の管理が推奨されております。

2010年10月26日 苫小牧民報 掲載

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