Mission Impossible Ⅱ(その②)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
小児中枢性疾患は医療行政的に中央集約となり、地域での治療・療育は無くなった?
中央で急性期医療を受けた後、地域での継続医療・療育がなく、社会適応能力を得られない中央集約型医療・療育の誤りは地域の対応を凌駕(りょうが)し、さらに10数年前から明らかとなった。その典型的な例はマニュアル(日本小児科学会 こどもの生活環境改善委員会)に沿った小児頭部外傷の治療方針である。今や生活背景のある小児頭部外傷(虐待に関連した頭部外傷 Abusive Head Trauma,AHT)を地域で治療することはほぼない。私がAHTを初めて経験したのは34年前(道立小児センター)で小児外傷性急性硬膜下血腫140例中10例(7.1%)が該当した。その後地域(とまこまい脳神経外科)で経験した小児頭部外傷6,833例中66例(0.9%)にケース会議(要保護児童対策協議会)で虐待(AHT)が認定された。被虐待児76例中27例(35.5%)は社会的養護(要保護児童)となり保護的環境下で管理された。12歳以上の超慢性期までの経過をフォローできたのは16例(59.3%)で反応性愛着障害、PTSD、反抗挑戦性障害を認め高次脳機能障害、発達障害などを認めた。8例は施設側と協力し頻回の受診と助言を行いその傾向はやや改善した。
10数年前までは苫小牧でも児童相談所との連携の中、AHTの外科的治療などの対応や経過観察、モニタリングを含めた治療・療育、支援が行えた。ところが13年前より子ども虐待対応の手引き(2013(平成25)年8月改訂版)などがAHTへの新たな対応となり、子育て支援の行政や小児科が主体となり小児脳神経外科は“蚊帳の外”になってしまった。虐待による頭部外傷の患児(AHT)は地域で診ていくことが可能かつ必要なのに中央に送られ、その後は連携する場所が地域にはないなどの理由から実家に帰されAHTが繰り返されたり、また疑いをかけられた親はPTSDを発症したりする。このように最近のAHTは受傷機転が過激化し重症化しただけではなく守秘義務などが社会から隔離されたAHT患児の障がいを作り出し、解決の障壁となり、福祉的治療、保護的環境下での療育・教育が継続出来ない要因となっている。また、背景のある小児頭部外傷による子どもの治療の質の向上には長期のモニタリングが必要でAHT患児の慢性期、超慢性期対応が不十分であると子ども(被虐待児)にさまざまな障がいを残すのは明らかであり、改善には超慢性期までに及ぶ主治医を含めた地域の継続的治療と親への教育など子どもが大人になるまで支援および個々の状況に応じた合理的配慮が必要である。形だけの指導で、抜本的な支援はなくなり地域(地元)に子ども(被虐待児)はいるが地元(地域)とつながりのない状況となっており、取り巻く環境は10数年前より悪化、深刻化している。
5.最近の子どもの中枢神経疾患の地域における対応とその後の流れ
急性期からのプライマリケア、外科的治療などの地域内対応は21年前から5年間ぐらい続いたが地域医療療育行政、医療者、働き方改革などの関係から再び何もしない地域医療・療育体制に戻ってしまった(Mission Impossible Ⅰ.苫医報81.10-13 2015)。
ハンディキャップのある子どもに対して地元(地域)で展開するという流れも少しは増えたが、旧態を選択する地域医療福祉行政の流れで再び中央に送られ、地域の中で能力を伸ばすという場面は失われている。社会適応能力を伸ばす地域対応は地域の保育園、幼稚園などによる特定の人との関係に委ねられ(子育てケース会議)就学前対応は能動的になったが、就学後の教育、育成は就学前の対応に比べて乏しく、子どもの潜在能力を引き出せていない。
近年増加している発達障害に対しても地域医療行政は中央志向であり、現象によるものとしての捉えと地域対応がなく「いぶり子ども療育研究会」も起動しない。私は地元(地域)での子どもの育成が必要と考え、社会適応能力を強化する児童発達支援及び放課後等ディサービス「にわとりファミリー」を2015(平成27)年に創った。活動を始めて11年、子ども達の成長を追うと適応能力獲得は順調である。苫小牧市も2021(令和3)年、特別支援学校を作ったが医療・療育、教育との連携は旧態依然である。
このように子どもの地域医療・療育に新たな外観を作り上げることは出来たが、達成(入魂)にはまだまだ難しくもう少し時間がかかるのだろうか(Mission Impossible Ⅱ)・・・
おわりに
小児中枢性疾患、小児神経外科治療は急性期対応で問題が解消される場合と後遺障害や社会的要因なども加わり発達、成長過程に遅れが生じ医療・療育の継続を必要とする場合がある。適切な予後を得るには地元(地域)における継続的治療・療育、教育が重要である。今、すべきことは当事者のみならず、地域の医療、療育、教育、行政関係者が現在の地域の小児医療・療育・教育を見直し、地域社会全体の問題として捉え、子どもの社会適応能力を伸ばすために合理的配慮を含めた新たな試みを実践すべきである。苫小牧にはソフトもハードもスポーツもあるので、地元(地域)を老若男女いろいろな人たちが住む場所に戻すため、医療・療育・教育、行政が現実的な計画と実践に奮起するべきである。
小児地域医療は地元(地域)の子育てへの未来である。地域(地元)の子どもの未来のために今Back to the Futureをして現状を打破し、挑戦していくべきである。私には時間が足りない・・・
2026年05月12日 苫小牧民報 掲載